研究内容

Research subjects

CERN-LHC超前方における3世代ニュートリノの測定および未知粒子探索 (FASER実験)

FASER(フェイザー)国際共同実験は、当初、欧州原子核研究機構(CERN、セルン)の大型ハドロンコライダー(LHC)の陽子・陽子衝突に起因する未知粒子探索を目的として提案されました。その後、2018年に我々日本グループはLHCに起因する未開拓の高エネルギー領域でのニュートリノ研究が同実験地点にて可能なことを見出し、LHCでのニュートリノ実験を初めて立ち上げました。現在の加速器によって生成できる最高エネルギーのニュートリノを研究し、未知の高エネルギー領域において3種類のフレーバーのニュートリノに素粒子標準理論を超えた物理の影響があるかを検証することを目指しています。

2018年に実施したFASERνパイロットランの最終結果として史上初めて世界最大・最高エネルギーの衝突型加速器LHCからのニュートリノ反応候補を初観測し、コライダーニュートリノ実験への道を拓きました。2022年には物理ランを開始しニュートリノ反応を観測し始めています。2025年まで続く物理ランにおいてニュートリノ検出器の運用・読み出し・解析を進めていきます。

Forward Physics Facility構想

FASER実験を基に、その後の高輝度LHCにおいて高統計タウニュートリノ測定を目指すFASERν2実験のセットアップ・検出器のデザインに取り組んでいます。FASER2実験、FASERν2実験等を含む超前方研究のためのプラットフォームForward Physics Facility (FPF) 構想に参画し、プロポーザルに向けた活動を行っています。FPFは未知粒子探索・ニュートリノ研究・ハドロン研究、宇宙物理にまたがる研究計画です。我々は、FPFにおけるニュートリノ実験を主導し、コライダーを用いたニュートリノ実験を推進していきます。

CERN-SPSにおけるタウニュートリノ生成研究 (NA65実験)

3世代あるニュートリノの中でもタウニュートリノについては、実験データが少なく、その性質を調べる高精度の測定が必要です。NA65/DsTau実験は、CERNのSPS加速器を用いてタウニュートリノの生成を研究する実験です。400 GeV陽子反応で生成されるDS中間子のタウ粒子への崩壊事象を検出し、 DS中間子の微分生成断面積を測定します。タウニュートリノビーム生成の不定性を現在の50%相当から10%以下に減らし、今後のタウニュートリノ研究への重要なインプットとすることを目指しています。

ミューオンの異常磁気能率および電気双極子能率の精密測定(J-PARC E34実験)

ミューオンなどの素粒子は磁石のような振る舞いをする磁気能率という物理量を持ちますが、ディラック方程式から導かれる予測値からのずれを異常磁気能率と呼びます。現在は素粒子標準模型に基づいた量子力学的補正を加えて高い精度でミューオンの異常磁気能率を計算することが可能となっていますが、米国にて過去に行われた実験、および現在進められている別の実験においてこの計算値からずれた測定結果が報告されています。もし、素粒子標準模型に含まれていない未知の粒子が存在した場合、このようなずれを生じ得ることから、新物理の兆候ではないかと期待されています。電気双極子能率についても素粒子であるミューオンで有限の値が観測されれば新物理の存在を示唆します。

この状況に決着を付けるべく、ミューオンの異常磁気能率および電気双極子能率をこれまでの実験手法とは異なる方法で精密測定することを目指した実験の準備が茨城県東海村にあるJ-PARCにて進められています。本研究室ではミューオン崩壊から生じる陽電子を検出するためのシリコンストリップ検出器の開発を進めています。

J-PARC E34実験の全体図と陽電子検出器の拡大図
J-PARC E34実験の全体図と陽電子検出器の拡大図

新型半導体検出器の開発(ペロブスカイト半導体)

素粒子実験分野で用いられる粒子検出技術の拡大を目指し、シリコンやゲルマニウムなどの既存の半導体に代わる新型半導体検出器の開発を行っています。その中でも、ペロブスカイト半導体は近年、高い光電変換効率を達成しつつ、製作コストの安さや形状の自由度の高さから太陽電池分野にて注目を集めています。太陽電池と粒子検出の基本的な原理は同じことから、ペロブスカイト半導体のこれらの性能に着目し、粒子検出器への応用を目指した研究を行っています。

ペロブスカイト単結晶を用いた試作検出器
ペロブスカイト単結晶を用いた試作検出器